【小阪裕司コラム第72話】お客さんを素通りさせないためには
【小阪裕司コラム第72話】お客さんを素通りさせないためには
前回、ワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)のある靴店が、センサーの効きがいまひとつの自動手指消毒機器に、
「鈍感ですみません…。一発で出たら『大吉!』。きっと良いことが待ってます。
コツは黒いセンサーに手を近づけることです。幸運を祈ってます」と書いた話をした。
そうしたところ、お客さんの行動や店の雰囲気が一変したと。
YouTube小阪裕司チャンネルの方では現物をお見せしているのでそちらもぜひご覧いただきたいが、いずれも大いに反響をいただいた。
そこで、この手の取り組みに関連した大切なことを、2016年の、日経MJの私のコラムに見つけたので、再度お伝えしておきたい。
ある製薬メーカーの方からのご報告。同社では、同社商品の購入につながる「骨量測定会」なるものを各地の薬局店頭で行っているが、この度、店頭の案内看板を少し変更しただけで、急に多くの方が参加してくれるようになったという。
それ以前の案内看板には、まず大きく「骨の健康度測定会」とあり、測定方法が写真と共に説明され、その他、場所と日時、結果はすぐプリントアウトして受け取れること、測定の際痛みなどはないこと、「ただいま実施中」の一言などが丁寧に書かれている。
一方、変更された看板にはそれらの情報はまったく無く、大きな文字で「今日、骨量測ってます。どなたでも無料でどうぞ」と書かれているだけ。どちらが丁寧な作りかと言えば前者なのだが、実際に参加する方の数は、圧倒的に後者の方が多かったのである。
この違いはどこにあるのか?
まず前者は、伝えたいことが多いゆえに情報を盛り込み過ぎて、かえってお客さんに伝わりにくくなっているのではないかと報告者も言うが、それもある。
また、看板のタイトルに目を向けてみると、前者は「骨の健康度測定会」となっている。
情報の送り手としては、骨量を測ることが骨の健康度を測ることゆえこのタイトルになるのだが、一般の人には分かりにくい。
自分の骨量を測ってもらえるのだとはすぐに理解できず、頭の中で2~3回翻訳しなければならない。
そもそも「骨の健康度」という表現にもなじみがない。
こういう場合、お客さんは看板を一瞥し、そのまま通り過ぎてしまうものなのである。
こういうギャップはよくあることだ。私の専門のひとつでもある〝情報デザイン〟とは、このような問題を無くすアプローチでもあるが、そのコツは、常に情報の受け手が直観的に分かる、分かりやすさを重視すること。
そして、今回のような場合なら、看板の前を通り過ぎるお客さんの頭の中を常に想像することなのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。