【小阪裕司コラム第75話】この苦境の武器になるものとは

【小阪裕司コラム第75話】この苦境の武器になるものとは

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第75話】この苦境の武器になるものとは

前回、あるワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)のイタリアンレストランからの報告をご紹介した。

テイクアウトのお弁当に添えるものを充実させたことで、お客さんから絶賛され、リピーターが増え、店にお客さんが戻ってきたという話だ。

実はこの実践には元ネタがある。コロナ情勢下で、ある割烹料理店が、店自慢の鰻料理を真空パックにしてテイクアウトと通販で売っていた。

この店でも当初は真空パックにたれなど一般的なものだけを同封しており、お客さんには十分満足いただいていたのだが、何か足りないと考え、店主手書きのメッセージや盛り付け用の笹などを一緒に入れるようにしたところ、お客さんに大絶賛されたというものだ。

最近ワクワク系マーケティング実践会で力を入れている実践手法のひとつに、「価値のパッケージ化」というものがある。

この事例はその実践の一例なのだが、中身も美味しさも値段も同じ商品が、こうしたことで、お客さんが得られる体験、この商品に感じる価値が大きく変わり、絶賛やリピート、口コミにつながる。

お客さんにより付加価値の高いものを提供していくワクワク系としては、今重要度が増している取り組みだ。

そこで実践会のメンバーが一堂に会し、この手法を学び、具体的な実践事例を共有する機会があったのだが、件のイタリアンレストラン店主はそこに参加し、この事例も見た。
それを材料にして、自店に落とし込んだのである。

私はもう20年にわたり実践会を主宰しているが、そこに集う方々にとって大変強力な武器になっているものは“事例”だ。自社・自店だけで生み出せる事例の数には限りがあり、自社・自店では気づけないこと、出てこないアイデアも多い。

そこで、他社・他店の事例がものをいう。言ってみれば、他社の考えたこと、行ったことを自社の結果につなげていくのである。そうすれば、アイデアははるかに豊富になり、生まれてくる成果の数も増える。

すでに当会には1万件を超える事例があり、毎月数百件ずつ増えているが、それはこれまでも心強いものだった。そしてこのコロナ禍で、その心強さが何倍にもなっている実感を、今、多くの会員が持っている。

変化が加速しているこの時勢に、常に考え、都度適切と思われる手を打ち続けることは難しい。しかし何千人という仲間たちの実践を後ろ盾にできると考えると、気も楽になるし、実際、今回の例のように活用できる事例は多い。

現在のような苦境において武器となるもの。それは事例であり、それを生み出してくれる仲間の存在なのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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