【小阪裕司コラム第76話】コロナ禍の墓石店、好業績の秘密
【小阪裕司コラム第76話】コロナ禍の墓石店、好業績の秘密
先日、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)の会員のある石材店主から、驚くようなご報告をいただいた。
それはこのコロナ禍で、特に5月以降、業績が好調だと言うのである。
「業績好調」と聞いて驚くのも失礼だが、なにせ販売しているものが墓石である。このコロナ禍、多くの業種で厳しい状況が続いているが、店主いわく、お墓はまさに不要不急、業界全体としては厳しい状況となっている。
事実同社でも、2月、3月には建てる予定だったお墓の延期もあり、先行きが不安になったこともあった。
しかし、5月、6月、7月と、例年以上にお墓の仕事は増えていった。
しかも売上は2桁の伸び。地元の同業や石材商社からは、「〇〇さん(店主の名前)のところだけどうなっているの?」「〇〇さんのところに地元のお墓の仕事が全部集まっているみたいだね」と不思議がられているという。
現状を振り返って店主は、この好業績の理由として、私が提唱している「ストック型の商い」ができていることをまずあげる。
「ストック型の商い」については、コロナ禍でその強さが浮き彫りになっており、このコラムや私のYouTubeチャンネルでも再三発信しているが、文字通り、顧客をしっかりと溜めて保持できている商いのこと。彼はそのための活動を今日まで地道に行ってきた。
彼がワクワク系マーケティング実践会に入会後まずやったことのひとつは、同社が過去に建てたお墓を調べて回り、顧客名簿を蘇らせることだった。
時間があれば墓地に行ってお墓を確認したり、先代が建てたお墓の建立者や記憶などをたどり、地図で探して住所やお名前の確認に行ったりと、自社の顧客を地道に確認し、顧客名簿を整理していった。
途中、こんなことをしていて将来の売上になるのか? お墓の購買頻度で絆などできるのか? と半信半疑だったと言うが、そう思いつつも、その名簿の方々との絆作り活動を続けていったのである。
そういう活動がなぜ今年の好業績になるのか。
例えばこの5月から7月、相次いだのは絆顧客からの新規客の紹介だった。
「コロナで大変だろうと思って、お墓を建てる友達を連れて来たよ」
「友人にお墓を直したいって相談を受けたから連れて来たよ」
といったものだ。
その他では「来年リフォームしてもらおうと思ってたんだけど、コロナで大変だろうから今年で」と言った顧客もいた。
「顧客と絆ができていることのありがたさ、安心感、大切さ。『ストック型の商い』の必要性。
その方法でしか、当店のような店は生き残っていけないと思いますし、そういう方向でないと愉しく仕事ができないと思いました」とは、店主の談である。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。