【小阪裕司コラム第82話】目先と未来を両立させるには
【小阪裕司コラム第82話】目先と未来を両立させるには
最近、この1年を振り返る機会が増えている。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)の会員さんからも、最近の実践と共にこの1年を振り返ったご報告が多く寄せられているが、そのなかのひとつ、春にこのコラムでも取り上げた卵農場経営者からのご報告をご紹介したい。
彼からの報告書の冒頭は、「さて、9月が決算だったのですが、去年を大幅に上回る利益となりました」から始まる。
とはいえ同社、これまで業績を伸ばしてきたのは飲食店の顧客が増えていったからで、ご存じのように今年はその飲食店の売上が激減している情勢だ。
にもかかわらずの好業績は、今年一般消費者向けいわゆるBtoCの売上が大幅に伸びたことにある。そのきっかけは、以前このコラムでも取り上げた、4トンもの卵が余ってしまった危機からのワクワク系的な切り返し、そこから先の怒涛の展開である。
それを彼は、「ここ数年続けてきた投資が今期から一気に回収が始まった」とする。ワクワク系の学びと実践も含めてだ。
ワクワク系に関して言えば、その理論と実践は、目先の売上・利益がポンと出てくる分かりやすいものばかりではないし、先々に大きく花開くものも多い。
同社では3年ほど前から取り組みが始まったが、当初ご両親や税理士にも反対されていたとのこと。「しかし」と彼は言う。
「止めませんでした。今ここでワクワク系の理論や手法に乗っ取って正しいフォームを身に付けなければ未来はないと感じていたからです。バッターボックスに立つその日を夢見て素振りを続けた訳です。そしてコロナです。
嬉しくない場面でバッターボックスへ立たざるを得なくなりました。大量に余ってしまった卵をどうにかしなければと思案をしました。以前にも事例を紹介していただいた、4トンの卵を消化した取り組みを実践しました。
愚直に素振りを繰り返した結果、ギリギリでしたがフォームがまとまっていたように感じます。源泉に触れ続け理論を学び、事例を頭に放り込んでいたおかげで、何をすべきかを知っていたのです」。
そうして彼の投資は、今年一気に結実した。
ここで私が言いたいことは、目先が厳しくなっている今日だからこそ、必要なことを学び、先々に商売がつながる取り組みを行うべきということ。
そして目先の売上は、学んでいることを材料に考え抜けば創ることができることだ。
そういう意味で、このコロナ禍でも、目先と未来は両立できる。
「今の売上を捨てて、3年後の未来を自分にプレゼントすると決めたら、なぜか売上が伸びました」とは、先の卵農場経営者の談である。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。