【小阪裕司コラム第88話】感性で市場は創られる

【小阪裕司コラム第88話】感性で市場は創られる

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第88話】感性で市場は創られる

今月下旬には、私の久々の著書が出る。

具体的な事例満載のものだが、そのひとつとして、あるハンバーグレストランも何度か取り上げ、そこから見えるこれからの商いを説いている。

今日はその一箇所を抜粋、一部改変してご紹介しよう。
(ちなみに著書内では、店名や店主名は実名で記されている)

世は感性でつながる時代になっている。
店と顧客、関係者と顧客、顧客と顧客、関係者と関係者、それらをつなげるものは「感性」だ。

ここでもう一度、あのハンバーグレストランの話をしよう。

同店は昨年、店主が「目標」としていた、会員数1万人を超えた。そこに到達したら、彼にはやってみたいことがあった。それは、会員だけを集めた、会員だけの営業日だ。
その日は会員しか入店できない。

この日はチケット購入制。朝8時から発売すると、6時台から並び、チケットを死守する強者も。そうして9時前にはチケットは「SOLD OUT」。

店主はこれがやりたくて、わざわざ本格的なコンサートチケットのような入場券を作ったとのこと。

営業が始まると、今度はこの日だけの特別な出し物が続く。

ハンバーグの前説や後説、いつもは真面目なスタッフのおちゃらけたパフォーマンス、顧客内ではよく知られた著名顧客の登場、食材の生産者さんのインタビュー、新メニューのオークション、等々…。

顧客同士の笑いはじける中、店主は、「生きててよかった」と思える時間だったと語る。
大事なことなのでここで強調しておくと、この熱いファンたちには、会員であることの金銭的特典は一切ない。
彼らは囲い込まれているわけではないのだ。

彼らはここにいたいから、いる。彼らは感性でつながっている。
そして生産者さんたちもまた、同じ。
価値を追求する店主に、彼らもつながっていく。

彼らもまた、どうせなら喜ばれたい。こんなお客さんに食べてもらいたい。
共に価値を創っていきたいのだ。

そうして育まれる〝ファンダム〟に、この店ならではの提供価値をまた新しい形――新メニューや、顧客が思ってもみないような新サービスなど――にして投げ込んでみるとどうなるだろうか。

たちまち「売れる」ことにならないだろうか。もちろん店や生産者も、投げ込むだけでなく、よってたかってその価値を語る。

顧客らはまたその思い、こだわり、物語に酔いしれる。そうして「市場」は創造される。
そう、「市場」とはこれから一層、そうやって生み出されていくのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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