【小阪裕司コラム第246話】お客さんは、本当は何を買っているのか

【小阪裕司コラム第246話】お客さんは、本当は何を買っているのか

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第246話】お客さんは、本当は何を買っているのか

前回、売上が日本一になったキッチンカーの話をした。同店の売上日本一の理由は、同業他店と比較して圧倒的に高い客単価だが、それは何が原因だと思うだろうか?前回お伝えしたような光景がこのキッチンカーでは毎日見られるが、なぜお客さんはあのような行動を取るのだろうか?

 そこで、もう6年ほど前の事例だが、今回の事例と関連するこういう話をしよう。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ある電器店からいただいたご報告だ。

 店主はその頃、同好の士を集めて趣味のジャズ演奏のビッグバンドを結成し、地元の祭りなどに出演し始めていた。そんなある日、初めて会うお客さんがパソコンを買いに来店したことがあった。その際、その方はこんなことを口にした。「祭りであなたたちの演奏を見たんです。あのバンドを率いているあなただったら大丈夫だろうと思ったので」。  つまりその方は、パソコンをこの店で買う理由をバンドの演奏を見たからだと言うのだ。店主が祭りのステージでパソコンのうんちくを傾けたわけではない。ドラムを叩いただけである。にもかかわらずこのお客さんは「あなただったら大丈夫」と思い、実際に買いに来たのである。

こんなこともあった。その後、またあるイベントで演奏した三週間後、一人のお客さんが来店した。年齢は六十代後半。購入履歴を見ると、この四年ほど買っていないお客さんだった。またこの方は、昨年冷蔵庫の購入を検討し、結局価格面で安い量販店での購入を決めた方だった。その方が、パソコンを買いに来た。しかも今回は価格などの比較はなく、同店で買うことを決めて来た。

そこで店主が、なぜ自分の店を選んでくれたのか不思議に思い話を聞くと、彼は言った。実は先日のイベントで店主のバンドの演奏を見たのだと。そして一緒に聴いていた町内の方とこういう会話になった。「よそに行ったほうが安いからといって、よその店で買い物をしていると、こんな文化が育たないよね。やっぱり地元の店で買い物をしないといけないね。」

 それから6年以上経ち、彼のバンドはすっかり有名になり、今や近隣の町までイベントに引っ張りだこ。電器店の方も相変わらず繁盛しており、最近改装された同店のショーウインドウには、家電品ではなくドラムセットが並ぶ。

今日のお客さんは、何に心動かされるのか。彼らは、本当は何を買っているのだろうか。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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