【小阪裕司コラム第305話】「思い込み」は怖い

【小阪裕司コラム第305話】「思い込み」は怖い

今回は、「思い込みは恐い」というお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある靴店からいただいたご報告。
店主は実践会に入会して、まだ約2か月。しかし、早速ワクワク系を実践したところ、早くも過去最高の売上になったという。それは、店主が「閑散期」という2月の売上だが、何を実践したのか。実は行ったことは、たった一つ、接客トークを変えただけ。ただ、ここで重要なことがある。彼が行ったことの前にさらに重要なことは、これまでの「思い込み」を捨てたことだ。
その「思い込み」とは、彼によるとこうだ。「ワクワク系に入会する以前の私の頭の中は、以下の通りです。お客様は、当店で取り扱っている商品・サービスを全て認識しており、その中から必要としている商品・サービスのみを私に伝え、購入しているという認識」。しかしワクワク系に触れ、「そんなことはないのだ」と気づいた彼は思い込みを捨てた。そして、それに基づき接客トークを変えた。具体的には、自店の商品・サービスの中から、各々のお客さんに最適と思われるものを選び、その都度しっかり丁寧に、おすすめの順序も含んでアピールすることにしたのである。

より具体的には、たとえば散歩用シューズを買いに来たお客さんには、足の大きさ、足裏の圧力分布などを改めて測定。足指の変形が確認された方にはさらなる変形を予防するためのオーダー中敷きを、巻き爪が確認された方には、巻き爪矯正やフットケアも提案し、その後の定期測定や、追加施術の予約まで促してみた。
すると、それらのお客さんは、ウォーキングシューズを購入した上で、店主が提案したオーダーの中敷きや、必要なフットケアの予約をしていった。彼の言う通りに買って行ったのだ。そのようなことは他の靴を買いに来たお客さんにも同様に起こり、結果として過去最高の売上となったのである。
続く3月も過去最高となり、「ワクワク系恐るべし!」と彼は言うが、真に恐ろしいのは「思い込み」だ。特に、お客さんは自社・自店の商品やサービスを知り尽くしており、熟考し決断した上で購入しているという思い込みは、最も多いものの一つだ。その結果、長年に渡って売上を失うことになってしまう。あなたにもぜひ、「思い込み」を点検していただきたい。

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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