【小阪裕司コラム第209話】お客さんはこんな店を好きになる2
【小阪裕司コラム第209話】お客さんはこんな店を好きになる2
前回、直接の顧客ではない、子供たちの気持ちをも強烈につかむ、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の店の実例をご紹介した。当会にはこのような店は多いが、その秘密は何だろうか。
子供に限ったことではないが、人は“情緒的な体験”をさせてもらった店に対し、好感や愛着、信頼などのポジティブな感情を持つという、研究知見がある。情緒的な体験とは、心がじーんとなったり、嬉しくなったり、ありがとうと言いたくなるようなことだ。そういう体験が積み重なると、お客さんはずっと長くこの店といい関係を続けていきたいと思うようになる。そういう法則があるのである。
ワクワク系マーケティングではこの法則に則り、お客さんに情緒的な体験を与える、もしくは共有することを奨励している。前回ご紹介した店も含めて、私の知る多くの店は、ゆえにそれを意識し、行っている。いつも心がけている。かといって、何かプレゼントをしたり、特別な企画を行っているとは限らない。雨の日には買い物袋にビニールをかけ、風の強い日にはお気をつけてと一声かける。情緒的な体験とは、そのようなほんの気遣いが態度になるだけでもいいのだ。また、親子で来店すれば、直接の買い物客である親ばかりを相手にせず、子どもたちにも同様に接する。
私は思う。子供たちの気持ちをつかむ店には、子供を魅了する特別なネタがあるのではなく、この情緒的な体験がカギなのではないかと。相手を思いやる気持ち、相手の心に寄り添おうとする気持ち、そこから生み出される態度や言動。それはちょっとしたことでも、たとえ自分に向けられたものでなくとも、人の心に強く響く。当然、子供たちの胸にもだ。
それを感じ続けて彼らは、その店が好きになっていく。それは、お客さんとの絆作り、ひいては商売の真髄でもある。 前回ご紹介した、ある親子常連客からの手紙は、次の言葉で結ばれていた。「この店を通して私達は、人が生きていくのに必要なものって何だろうと気づくチャンスをもらっている気がします。」
この言葉にこそ、答えが凝縮されていると私は思う。そして、こういう店が減っている今日、お客さんにとって、社会にとって、このような店はより必要とされていくのではないかと思うのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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