【小阪裕司コラム第217話】「どうしてもここで働きたい」

前回、お客さんから、「高いけどおたくにしか頼む気にならない」と言われる、ワクワク系マーケティング実践会（このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会）会員の葬儀社のお話をした。その決め手は「丁寧な仕事」だと、そしてそれが会社・お店にもたらすものは、売上だけではないと。では何か。それを示す最近の同社のエピソードをご紹介しよう。

ある日同社にアポイントなしの来客があった。どこかの会社の営業かと思っていると、「私、○○高校の進路アドバイザーの○○と申します」と言う。そしてその方はこう続けた。「御社で働きたい生徒がいます。家族の葬儀で御社の葬儀場に参列した際に、ここで働きたいと思ったそうです。その生徒がハローワークの一般求人を見て、高卒求人を行うか確認にお邪魔しました。」

これを聞き社長は目が点になったという。同社は、ただでさえ応募の少ない葬祭業であり、「さらに、田舎の小さな小さな10 名程度の葬儀社。こんな会社に新卒の応募が来るとは。そもそも、応募すら出していないのに。」

さらに、同社の社用車には一部マニュアル車があることから、一般求人には「免許がオートマ限定の方はご相談ください」と書いてあるのだが、それを見てこの生徒は「マニュアルで免許取ります！」とまで言っているとのこと。

今回のことを契機に、彼は振り返る。「思えば、現在アルバイトに来ているスタッフは実家で祖母の葬儀に参列して、葬儀社で働きたいと思った、大学院まで出た才女。最年少でミスなく業務をこなし、とても気が利くスタッフは顧客の娘さん。転職の際に両親にこの葬儀社はどうかと相談したら勧められたのがきっかけ。勤務先の業績悪化で転職を決意した 20 代男性。その方もすでに両親を亡くしていますが、弊社での葬儀に感銘を受けて求人を見た時に異業種だが応募したいと思った」と。

「高いけどおたくにしか頼む気にならない」と言われることと、「どうしてもこの会社で働きたい」と言われることは表裏一体だ。そしてその決め手は「丁寧な仕事」であり、人に感銘を与えるような仕事だ。社長も言う。

中小企業は質の高い仕事をして、顧客と絆を作る。その絆の中から同じ志の社員が働きたいと集まる。それが大事だと。人手不足と人財育成難が増していくこれからの社会で、大変示唆に富んだことである。

小阪裕司　オラクルひと・しくみ研究所代表　博士（情報学）

山口大学（美学専攻）を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

【小阪裕司コラム第217話】「どうしてもここで働きたい」

【小阪裕司コラム第217話】「どうしてもここで働きたい」

おすすめの関連記事

会員制サービス

「CaSS

（Car-business Support Service／キャス）」
に関するお問い合わせ

【小阪裕司コラム第217話】「どうしてもここで働きたい」

おすすめの関連記事

【小阪裕司コラム第216話】「高いけどおたくにしか頼む気にならない」

【小阪裕司コラム第215話】お客さんの見せる顔が違う

【小阪裕司コラム第214話】会話の発生装置

【小阪裕司コラム第213話】現場に山のように

会員制サービス 「CaSS （Car-business Support Service／キャス）」に関するお問い合わせ

会員制サービス

「CaSS

（Car-business Support Service／キャス）」
に関するお問い合わせ