【小阪裕司コラム第176話】1つの商品の中の2つの顔とは
【小阪裕司コラム第176話】1つの商品の中の2つの顔とは
今回は、私が新著でも語っている「消費者は2つの顔を持っている」の、とても分かりやすく貴重な実例をお伝えしよう。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ある住宅会社にお勤めの方からのご報告だ。
同社では、同社で家を建ててくれたお客さんとファンミーティングを行っている。その中に、「どうしてもラップサイディングのアメリカンハウスが建てたくて」、同社で家を建てたお客さんがいた。
「ラップサイディング」とは壁の工法のことで、幅の細い板を1枚1枚重ね張りして仕上げるものだ。光が当たると、重ねた板それぞれに陰影がかかり美しい。海外では広く普及しており、特にアメリカでは1700年代後半に流行したことから、「アーリーアメリカン様式」とも呼ばれる。先のお客さんは、「このデザインじゃなかったら家を建てる意味なかった」とまでおっしゃる惚れ込みようだった。
そこでそのミーティングでは、このお客さんに、同社の方で用意した建築中の写真を使って、ご自宅の説明をしていただくようお願いした。するとその方は、「クローゼットのドアはコストカットでつけるのやめました」「床は子供が小さいので、傷がつきにくくてメンテナンスが楽で、コストカットできるフロアを選びました」「カバードポーチもやりたかったんですけど、コストカットにもなるしやめることにしました」と、どう工夫してコストカットをしたかを熱心に話された。そこで思った。それだけ熱心にコストカットに努めたのには予算に限りがあったからだろう。しかし一番簡単にコストカットできるのはラップサイディングだ。それだけで100万円近くカットできるのだから。それでも彼らは、そこはあきらめず、数万円の室内ドアをやめたり、床を変更するなど、小さな工夫を積み重ねて予算を調整した。これこそが、「消費者は2つの顔を持っている」ということなのだろう、と。
どんなに使えるお金に限りがあっても、お客さんは、自分が使いたいと思う、すなわち高い価値を感じているところにお金を使う。限りある予算を配分する。これは今日の重要な消費者心理・行動であり、このことをよく理解していないと、価値の高いものを売ったり、薦めたり、値上げをすることは難しい。ましてこの事例からは、「住宅」という1つの商品の中にも2つの顔があることが分かる。「消費者は2つの顔を持っている」、このことをいつも忘れないでいただきたい。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
おすすめの関連記事
-
【小阪裕司コラム第175話】価値を上げファンを作ると、休みが増える3
カテゴリ : 小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ前回の続き。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある和菓子店が、自店の価値を上げ、連れて単価も上げ値上げもし、ファンも増やしていった結...
-
【小阪裕司コラム第174話】価値を上げファンを作ると、休みが増える2
カテゴリ : 小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ前回の続き。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある和菓子店が、自店の価値を上げ、連れて単価も上げ値上げもし、ファンも増やしていった結...
-
【小阪裕司コラム第173話】価値を上げファンを作ると、休みが増える1
カテゴリ : 小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ今回は、自店の価値を上げ、連れて単価も上げ値上げもし、ファンも増やしていった結果として、店休日を増やすことができた、という事例を、回を分けてご紹介しよう。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理...
-
【小阪裕司コラム第172話】2年分を2週間で売ったある改善とは
カテゴリ : 小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ今回は、2年間で70本しか売れなかった商品に、店頭であることを行った結果、価格を2割も上げたにも関わらず、2週間で70本、つまりそれまでの2年分を売ることができた、という事例をご紹介しよう。ワクワク系マーケティング実践会...