【小阪裕司コラム第177話】予算150万が300万に変わった理由とは
【小阪裕司コラム第177話】予算150万が300万に変わった理由とは
今回は、お墓の話。「予算150万くらいで…」と相談に来たあるお客さんが、結局300万近いお墓に決め、しかも大いに喜ばれたというお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ある石材店からのご報告だ。
同店では、建墓の相談にお越しになったお客さんに、まず予算を聞き次に見積もり、と性急に事を進めようとせず、時間をかけて対話し、できる限りお客さんの事情や故人のことなどをお話しいただくことにしている。このお客さんとも同様に対話を進めていくと、故人が石原裕次郎の大ファンだったということが分かった。そこで店主は提案した。「どうせなら、石原裕次郎のお墓と同じ石で建ててあげませんか?」。すると、お客さんもそれは良い!ということに。その時点でまず、お客さんの予算は5割ほどオーバーした。
さらに対話を続けていくと、今度は故人が「睡蓮」という柳号で川柳を詠んでいたことが分かった。そこで店主、「『睡華台』を付けてあげませんか?」。そしてこう話を続けた。「どんな仏さまも必ず蓮華の上に乗っておられます。蓮華は往生と成仏のシンボルなんです。なぜかと言いますと、蓮花には3つの特徴があるからなのです」。そうしてさらにその3つの特徴を丁寧に説明すると、お客さんもそれは良い!ということに。睡華台も付けることとなり、それやこれやで、結果的にこの型のお墓は300万円近いお値段となったのだった。
念のため言うが、店主は、単価を上げることを目的にこのような提案をしたのではない。結果として単価は上がったが、店主がこういう対話と提案を常に心がけているのには、お墓は人と人をつなぐもの、さらには時間や空間もつなぎ、届け切れなかった「愛」すらもつなぐもの、という思い、それをお手伝いするのが石材店だ、というミッションがあるからだ。
来店したお客さんに手早く見積もりを出し、契約し、工事すれば、作業はそれで終わる。しかしこの店主にとって、石材店という「仕事」は「作業」ではない。そして、お客さんにとっても、故人と自分たちをつなぐお墓は、本当は単なる「モノ」ではない。お客さんも店主との対話を経てそこにどんどん気づいていったからこそ、300万出せる、いや、「出したくなる」。これこそが商売の本質。そしてここにこそ、今日の「価格上昇時代」に、「価格」に惑わされない商売の道があるのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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