【小阪裕司コラム第178話】一見何の関わりもないことが

【小阪裕司コラム第178話】一見何の関わりもないことが

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第178話】一見何の関わりもないことが

前回、予算150万で建墓の相談に来たあるお客さんが、結局300万近いお墓に決め、しかも大いに喜ばれたというお話をお伝えした。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ある石材店での出来事だ。そこで今回は続いて、同店が行っている、一風変わった活動を紹介しよう。

同店では最近、ご家庭で飼っている金魚が死んだ場合、引き取って、無料で埋葬することを始めた。きっかけは町で聞こえてきた保育園児を連れた親御さんたちの次の会話だった。「なぁなぁ、金魚とか死んでたらどうしてるぅ?」「トレイに流すー」「普通にごみ箱に捨ててるー」。

「いくらなんでも、トイレに流したり、ごみ箱に捨てるのはあんまりだ」――店主はそう思った。しかし、この地域では庭のない一戸建ても多く、埋める場所もない、とも思った。もともと同店には、同店で飼っている蛍を埋葬する「ほたる之墓」がある。そこで、金魚やメダカ、クワガタやカブトムシなどの埋葬を引き受けることにしたのである。(その告知では、「ただし、ワンちゃんなどはお受けできません。その場合、ペット用の火葬場を紹介させていただきます」と明記されている)。

前回、同店がお墓というものを単なる「モノ」とは考えておらず、人と人や、時間と空間をつなぐ特別なものだと考えていることもお伝えした。従って、同店にとって建墓とは単なる「作業」ではなく、意味ある「仕事」なのだと。今回の埋葬を引き受ける活動も、こういった同店のお墓やそれにまつわる物事への一貫した姿勢が貫かれている。

また同店は、地域との関わりを深めることにも熱心だ。そもそも同店に「ほたる之墓」があることも、都市のど真ん中に位置する同店が蛍を飼い、およそ蛍を目にすることもないだろう近隣の方々に楽しんでいただき、癒されてもらおうという思いからだ。そうして人々を楽しませ、癒してくれた蛍へ感謝の気持ちを込めてお墓を建て埋葬してきた。そんな同店だからこそ、地域の方々の困りごとに寄り添い、生き物への感謝の気持ちをまた貫いているのである。

同店では、他にも地域に根差した活動が多くあるが、こういう活動は、石材店の商売には一見何の関係もないように見える。しかし、それらを通じ同店は、地域の大人から子供にまでよく知られ、広く信頼が育まれている。このことは商売に、長きに渡ってどんな影響を与えるだろうか?それは本当に、商売に関係のないことだろうか?

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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